ご家族が認知症と診断されると、「これから何を準備すればいいのか」と不安になる方がほとんどです。認知症は日本における要介護の原因の第1位であり、厚生労働省の「認知症施策推進大綱」および共生社会の実現を推進するための認知症基本法のもと、早期対応と地域での支援体制づくりが重視されています。このチェックリストでは、診断直後の医療体制の確認から、自宅の安全対策、法的手続き、日常のケアまで、認知症の進行段階に応じてやるべきことを整理しています。
認知症の初期段階では、まず地域包括支援センターへの相談と、認知症初期集中支援チームの活用を検討しましょう。認知症初期集中支援チームは、医師・看護師・介護福祉士等の専門職が自宅を訪問し、概ね6か月を目安に包括的な初期支援を行うチームで、原則としてすべての市区町村に設置されています。鑑別診断や専門的な医療相談が必要な場合は、都道府県・指定都市が指定する認知症疾患医療センターの活用も検討してください。また、判断能力が保たれているうちに成年後見制度(任意後見)や家族信託について検討しておくことも重要です。
進行段階によってやるべきことの重点は変わります。初期(軽度)は診断確定・服薬開始・法的準備と安全対策の見直しが中心、中期(中等度)はBPSD(行動・心理症状)への対応や徘徊対策の強化、介護サービスの本格活用が課題となり、後期(重度)は嚥下・排泄・褥瘡予防など身体ケアの比重が増します。薬物療法の効果・副作用の評価や症状への対応方針は必ず主治医・認知症サポート医と相談し、自己判断での薬の増減や中断は避けてください。
認知症の介護は長期にわたるため、一人で抱え込まないことが大切です。本人の「できること」を尊重し尊厳を守りながら、家族・専門職・地域で支える体制をつくりましょう。チェックリストを家族と共有して役割を分担すれば、離れて暮らすご家族とも準備状況をリアルタイムで確認できます。
家族と共有してやるべきことを分担
もの忘れ外来・認知症疾患医療センターでの受診、診断、MCI 段階からの専門医連携、服薬管理。進行段階の見極めは主治医と相談
診断内容と認知症の種類を確認する
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アルツハイマー型・レビー小体型・血管性・前頭側頭型など、種類によって症状の進行や対応が異なります。主治医に詳しく確認しましょう
レビー小体型は抗精神病薬に過敏反応が出やすいなど、タイプ別に注意点が異なります。診断書や検査結果のコピーを保管し、他科受診時にも共有できるようにしておきましょう
定期通院の体制を整える
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認知症の進行度合いや服薬の効果・副作用を確認するため、定期的な受診が必要です
通院が負担になってきたら、訪問診療(在宅医)への切り替えを主治医と相談してください。認知症サポート医のいる医療機関であれば専門的な対応が受けやすくなります
服薬管理の方法を決める
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飲み忘れや重複服薬を防ぐため、お薬カレンダーや一包化調剤を薬局に相談しましょう
自己判断で抗認知症薬を増減・中止しないこと。効果や副作用(食欲不振・徐脈・興奮等)が気になる場合は主治医に相談してください。お薬手帳を一冊にまとめると飲み合わせの確認もしやすくなります
認知症初期集中支援チームに相談する
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医師・看護師・介護福祉士等の専門職が自宅を訪問し、概ね6か月を目安に初期の支援を包括的に行うチーム。地域包括支援センター経由で利用できます
受診拒否や介護サービスにつながっていない方でも相談できます。本人・家族のどちらから相談しても構いません
認知症疾患医療センターを確認する
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診断に迷う症例や BPSD が強い場合に鑑別診断・専門医療相談・身体合併症への対応を受けられる専門機関。早期に接点を持つと進行期の急性期入院や専門療法へのアクセスがスムーズになる
都道府県・指定都市が指定する専門医療機関で、鑑別診断・専門医療相談・身体合併症への対応を行います。かかりつけ医からの紹介が基本ですが、直接相談できる場合もあるため、まずは地域包括支援センターや自治体に確認してください
徘徊・転倒・火災・誤飲など認知症特有のリスクに備える環境整備。見守り機器や介護保険住宅改修費の活用は市区町村とケアマネに確認
徘徊(ひとり歩き)対策を講じる
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玄関のセンサー設置、GPS端末の携帯、近隣への事前の声掛けなど、複数の対策を組み合わせましょう
「徘徊」は本人の目的意識を軽視する表現とされ、近年は「ひとり歩き」と呼ぶ自治体も増えています。衣服や持ち物に名前・連絡先を記入した布やキーホルダーを付けておくと発見時に役立ちます
火の元の安全対策をする
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ガスコンロからIHへの切替、Siセンサーコンロへの交換、ライターの管理などを検討しましょう
消防庁は高齢者の住宅火災対策として、Siセンサーコンロ(全口に調理油過熱防止装置を搭載)や住宅用火災警報器の設置を推奨しています。本人の自尊心に配慮しつつ段階的に進めてください
転倒リスクを減らす
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段差の解消、手すりの設置、滑りやすいマットの除去など。介護保険の住宅改修制度(支給限度基準額20万円、自己負担1〜3割)が利用できる場合があります
住宅改修の支給限度額や対象工事の詳細は市区町村で異なる場合があるため、着工前にケアマネジャーと市区町村の窓口に必ず確認してください
薬・洗剤など危険物を管理する
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誤飲防止のため、薬・洗剤・漂白剤などは本人の手が届かない場所に保管しましょう
処方薬の管理に不安がある段階では、服薬ボックスに鍵をかける、訪問看護師に服薬確認を依頼する等の方法があります。本人の自立心を尊重し「隠す」のではなく「一緒に管理する」姿勢を心がけましょう
浴室の安全対策をする
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滑り止めマット、手すりの設置、給湯温度の固定(やけど防止のため41℃以下の設定が目安)を行いましょう。ヒートショック予防のため脱衣所と浴室の温度差を小さくする工夫も重要です
成年後見制度・日常生活自立支援事業・財産管理・運転免許返納など。判断能力が低下する前の早めの準備が本人の意思尊重につながる
任意後見制度を検討する
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判断能力があるうちに、将来の財産管理や契約行為を信頼できる人に委任する制度。公証役場で任意後見契約を公正証書で結びます
制度の詳細や手続きは法務省・公証人連合会の公式情報を確認してください。契約内容は本人の意向を反映させやすいため、初期のうちに検討する価値があります
重要書類の保管場所を確認する
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健康保険証・マイナンバーカード・年金手帳・通帳・不動産権利証・印鑑などの保管場所を家族で共有しておきましょう
判断能力が低下してからだと書類の場所が本人にも分からなくなることがあります。本人が元気なうちに、一覧表を作って信頼できる家族と共有しておくと安心です
家族信託を検討する
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成年後見制度より柔軟に資産管理を設計できる手段。判断能力があるうちでないと契約できないため、認知症初期段階での検討が本人の意思を活かす鍵となる
不動産や預貯金の管理を家族に託す仕組み。成年後見制度より柔軟な運用が可能ですが、契約設計には専門知識が必要なため、家族信託に詳しい司法書士や弁護士への相談を推奨します。判断能力があるうちに契約する必要があります
加入保険の給付条件を確認する
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民間の介護保険や認知症保険に加入している場合、給付条件・診断書の要否・請求期限を確認しましょう
認知症保険は商品により「所定の認知症と診断確定されたとき」等、給付要件が異なります。請求書類に主治医の診断書が必要な場合があるため、早めに保険会社に問い合わせてください
介護保険申請・ケアプラン作成、デイサービス・小規模多機能・グループホームなど認知症対応型サービスの選択肢。自治体差があるため窓口に確認
地域包括支援センターに相談する
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認知症の介護に関する無料の総合相談窓口。お住まいの日常生活圏域を担当するセンターにまず相談しましょう
保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーが配置されており、サービス紹介だけでなく権利擁護や虐待相談にも対応します。本人が同行できなくても家族のみで相談可能です
要介護認定を申請する
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介護保険サービスを利用するために必要。市区町村の窓口または地域包括支援センターで申請でき、申請から認定まで原則30日以内です
認定調査時は普段の様子を正確に伝えることが重要です。「人前では取り繕う」傾向があるため、家族から日常の困りごとを具体的にメモしておくと調査員に伝わりやすくなります
デイサービス・デイケアを検討する
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日中の活動やリハビリの場として、本人の社会参加と介護者の休息に役立ちます
認知症対応型通所介護(認知症デイ)は少人数制で専門スタッフが対応するため、集団になじみにくい方にも適しています。見学・体験利用から始めるのが一般的です
ショートステイの利用を検討する
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介護者が休息(レスパイト)を取るために、短期間施設に預けるサービス。定期的な利用で介護疲れを防ぎましょう
介護保険の短期入所生活介護・短期入所療養介護があり、要介護度に応じた支給限度額内で利用できます。認知症の方は環境変化で不調になる場合があるため、初回は短期間から慣らすのがコツです
認知症カフェに参加する
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認知症施策推進大綱で普及が進む地域拠点。本人の孤立感軽減と家族の情報交換・気分転換が同時にできるため、医療・介護サービスだけでは埋まらない生活の質を支える
認知症施策推進大綱でも普及が推進されている、本人・家族・地域住民・専門職が集う交流の場。多くの市区町村で月1〜2回開催されており、情報交換や気分転換になります
BPSD(行動・心理症状)への対応、声かけの工夫、尊厳を保つ関わり方。認知症ケア研修(ユマニチュード等)や地域の家族会の活用も有効
認知症の方への接し方を学ぶ
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否定せず受け止める、短い文で伝える、選択肢を少なくするなどのポイントがあります
自治体やキャラバン・メイトが開催する「認知症サポーター養成講座」では、全国共通のカリキュラムで対応の基本を学べます。本人の自尊心を傷つけない声かけが家族介護では特に重要です
生活リズムを整える
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毎日同じ時間に起床・食事・就寝する規則正しい生活が、症状の安定につながります
日中の光を浴びる・適度に体を動かすことで昼夜逆転の予防になります。睡眠障害や夕方以降の不穏(夕暮れ症候群)が続く場合は主治医に相談してください
記憶の補助ツールを用意する
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カレンダー、ホワイトボード、写真付きの表示、大きな文字の時計など、日常生活をサポートする工夫をしましょう。本人の「できること」を残す視点で、使い慣れた道具を活用するのがコツです
主介護者の負担分散・レスパイト活用・家族会議・相談窓口(認知症の人と家族の会 0120-294-456 等)。介護うつ予防も視野に入れた体制づくり
家族会議を開く
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介護方針・役割分担・費用負担について家族全員で話し合い、認識を揃えましょう
介護の役割分担を決める
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通院付き添い・服薬管理・金銭管理・緊急時対応など、具体的に分担を決めましょう
緊急連絡先・医療情報を共有する
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かかりつけ医・ケアマネジャー・地域包括支援センター・家族の連絡先と、病名・服薬情報を一覧にしておきましょう
介護者自身の休息を計画する
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認知症の介護は長期にわたります。ショートステイやデイサービスを活用し、定期的に休息を取りましょう
家族会・介護者サポートグループに参加する
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同じ経験をした家族からの実践知と共感は、専門職の助言とは異なる角度で介護うつ予防につながる。長期戦になる認知症介護を継続するためのセーフティネット
同じ立場の方との情報交換や相談は、精神的な支えになります。認知症の人と家族の会などの団体があります
認知症は発症から長期にわたり段階的に進行する慢性疾患です。段階ごとに本人の状態と家族・介護者に求められる対応は大きく変わります。以下は厚生労働省「認知症施策推進大綱」および日本認知症学会・日本老年精神医学会の知見をもとに整理した、進行段階別の目安です。
ご注意: 進行速度・症状の現れ方は個人差が非常に大きく、アルツハイマー型・レビー小体型・血管性・前頭側頭型など種類によっても経過が異なります。薬物療法や医療的処置の選択、BPSDへの対応は必ず主治医・認知症専門医(認知症サポート医)と相談してください。最新の制度・支援策は厚生労働省「認知症施策推進大綱」、お住まいの自治体の認知症疾患医療センター・地域包括支援センター、認知症介護研究・研修センターの情報で随時ご確認ください。
認知症疾患医療センター・もの忘れ外来で鑑別診断を受け、タイプ(アルツハイマー型・レビー小体型・血管性・前頭側頭型)を確認。判断能力があるうちに任意後見契約・家族信託を検討し、地域包括支援センターに要介護認定を申請します。
Siセンサーコンロ化・手すり設置・浴室の滑り止め等で転倒と火災を防止。GPS端末・玄関センサー・徘徊SOSネットワーク登録で「ひとり歩き」対策を複層化し、薬や洗剤など危険物の管理も見直します。
不安・興奮・徘徊などのBPSDは非薬物的アプローチを優先し、主治医・認知症サポート医と相談。デイサービス・ショートステイ・認知症対応型グループホームを組み合わせ、介護者のレスパイトを確保します。
通院付き添い・服薬管理・金銭管理・緊急対応を家族会議で分担。認知症の人と家族の会など家族会への参加で情報交換と精神的支えを確保し、長期戦に備えた体制を作ります。
まずお住まいの地域の地域包括支援センターに相談しましょう。無料の総合相談窓口で、介護保険の申請手続きや利用できるサービスについて案内してもらえます。また、認知症初期集中支援チームの訪問支援を受けることもできます。
医師・看護師・介護福祉士などの専門職で構成されるチームで、認知症が疑われる方やその家族の自宅を訪問し、医療・介護の導入や家族支援を包括的に行います。すべての市区町村に設置されており、地域包括支援センターを通じて利用できます。
判断能力があるうちに任意後見契約を結んでおくのが理想的です。任意後見は本人が後見人を選べるため、意思を反映しやすいメリットがあります。判断能力が低下してからは法定後見の申立てが必要になり、家庭裁判所が後見人を選任します。詳しくは最寄りの家庭裁判所や法テラスにご相談ください。
GPS端末の携帯、玄関のセンサーやドアロックの設置、衣服や持ち物への名前・連絡先の記入、近隣の方への事前の声掛けなどがあります。また、市区町村の「徘徊SOSネットワーク」に登録しておくと、行方不明時に地域全体で捜索してもらえます。
生命保険文化センター「生活保障に関する調査」では、在宅介護の平均月額は約5万円前後、介護施設利用時は約12〜17万円が目安とされています(所得区分・要介護度・地域により幅があります)。介護保険サービスの自己負担は所得に応じて1〜3割、要介護度ごとの区分支給限度額(要介護1で約16.7万円/月〜要介護5で約36.2万円/月)を超える利用分は全額自己負担です。初期費用として福祉用具購入・住宅改修、施設入居時は一時金が別途かかるケースも。費用負担軽減には高額介護サービス費・高額医療高額介護合算・負担限度額認定・医療費控除・障害者控除などの制度があり、詳細は `/ja/templates/caregiver-financial-planning` の資金計画リストとケアマネジャー・市区町村窓口で確認してください。
否定や叱責をせず、本人の気持ちを受け止めることが基本です。短い文でゆっくり話す、選択肢を少なくする、できることは本人にやってもらう、などのポイントがあります。行動・心理症状(BPSD)が見られる場合は、主治医やケアマネジャーに相談しましょう。
初期・中期・後期の段階を選ぶと、その時点で優先すべき対応が表示されます。認知症の進行に合わせて、必要な準備を段階的に進められます。
チェックリストを家族と共有すれば、通院付き添い・服薬管理・手続きなどの役割分担を見える化。離れて暮らすご家族とも連携しやすくなります。
診断名・処方薬・主治医連絡先・緊急時対応などを家族全員が手元で確認。BPSD や急変時、救急搬送時にも認知症の特性を正確に伝えられ、遠方の家族とも認識のずれなく対応できます。